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コラム:デマンドレスポンス

デマンドレスポンス

デマンドレスポンス(Demand Response)とは、需要家(電気を使う人)が使用量を調整することで電力ネットワーク全体の需要(消費)と供給(発電)のバランスを安定化させる仕組みのことです。電力の供給力が不足すると言われる昨今、節電による省エネ対策としてはもちろん、効率的な電力ネットワークの構築や再生可能エネルギーの導入促進にも貢献するものとして、とても注目されています。
本コラムでは、そんなデマンドレスポンスの種類や方法について、節電分が電力料金の割引につながるサービスと合わせて解説していきます。

1. デマンドレスポンスとは?

電気は基本的に「貯めておくことができない」ため、常に需要と供給のバランスを保つ必要があります。このバランスが崩れると、電圧や周波数などが乱れ電気の品質が低下し、最悪の場合、大規模な停電などにつながる可能性があります。デマンドレスポンスとは、電気の需要と供給のバランスをとるために、小売電気事業者から需要家に電気の使用量を調整してもらうよう促す仕組みです。電気を使う側からすれば、指定された時間帯に電気の使用を抑制したり、逆に使用量を増やしたりすることで需要と供給のバランスの維持に貢献できます。また、太陽光発電などの再生可能エネルギーによる電力の「天候の影響を受けやすい」(好天時は発電量が計画より多く、曇天時は少ない等)といった不安定要素が、デマンドレスポンスを活用することで補われる点も注目されています。

  • ・デマンドレスポンスを採用している小売電気事業社
    →電気の使用量や時間帯で価格設定を変更したり、削減量に応じた報酬(インセンティブ)を支払うなどにより参加を促進
  • ・需要家(電気を使う人)
    →電力ネットワーク全体の安定化に貢献
デマンドレスポンスは、供給量の過不足に応じて需要側を調整する仕組み 常にバランスする必要

2. デマンドレスポンスの概要

近年注目されているこのデマンドレスポンスは、2015年3月にガイドラインが策定され、2017年4月には節電した電気を売買できる取引市場の運用が開始、2018年には、実際に電力需給ひっ迫時に発動されています。ここではデマンドレスポンスの実施方法や取引方法についてご紹介します。

①実施方法

デマンドレスポンス(DR)の実施方法は、電力使用量の増減パターンから(1)上げDR(2)下げDR の2つに分けられます。

(1)上げDR=デマンドレスポンスの発動により電気の使用量を増やすこと
(2)下げDR=デマンドレスポンスの発動により電気の使用量を減らすこと

(1)上げDR
太陽光や風力などの再生可能エネルギーによって、需要量以上に発電された余剰電力を利用して機器を動かしたり、蓄電池に充電したりと、余剰分を需要を増やすことで吸収するものです。

(2)下げDR
電力需要のピーク時など電力需給がひっ迫したときに、電気の使用量を抑制するなどして需要と供給のバランス維持に貢献するものです。その中で、特にインセンティブ型の下げDR(以下②-(2)参照)を、「ネガワット取引」といいます。

2020年度、2021年度冬季の電力需給ひっ迫時にもデマンドレスポンスが発動されました。これによって、2021 年1月は全国で 約1,300 万kWh、2022年3月は約796万kWhの節電がデマンドレスポンスにより行われ、需給バランスに貢献したとされています。

②取引方法

デマンドレスポンスの取引の方法は、2つに分類されます。

(1)電気料金型
小売電気事業者が特定の時間帯の電気料金を高く設定するなどして、料金によって節電を促すものです。
例)小売電力事業者の季節別時間帯別電力メニュー(夏季、その他季、ピーク時間帯、昼間時間帯、
夜間時間帯)など

(2)インセンティブ型
「ネガワット※1取引」ともいわれます。事前の契約などに基づき、一般送配電事業者※2や小売電気事業者
(アグリゲーター※3)からの指示に基づいて需要家側の電気の使用量を調整する下げDRのことです。電気のピーク需要のタイミングで節電を行ってもらうことで、需要家にインセンティブ(報酬)を支払うもので、需要家は節電による電気料金の削減に加えてインセンティブも得ることができます。

※1 ネガワットとは、節電により余った電力を発電したことと同等の価値とみなす考え方

※2 一般送配電事業者は、以下の10電力会社を指す。北海道電力ネットワーク株式会社、東北電力ネットワーク株式会社、東京電力パワーグリッド株式会社、中部電力パワーグリッド株式会社、北陸電力送配電株式会社、関西電力送配電株式会社、中国電力ネットワーク株式会社、四国電力送配電株式会社、九州電力送配電株式会社、沖縄電力株式会社(2022年7月現在)

※3 アグリゲーターとは、自家発電機、太陽光発電、蓄電池、電気自動車の蓄電池など、さまざまなところにあるエネルギーリソースを制御統合した仮想発電所機能およびデマンドレスポンスによるピークカット分からエネルギーサービスを提供する事業者のこと。役割によってリソースアグリゲーター、アグリゲーションコーディネーターに分かれ、両役割を兼ねる事業者も存在

ネガワット取引のイメージ

出典:資源エネルギー庁ウェブサイト
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/negawatt.html)

下げDRの代表的な手法

出典:資源エネルギー庁「エネルギー・リソース・アグリケーション・ビジネス・ハンドブック」
(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/files/erab_handbook.pdf)

3. エネットのデマンドレスポンス

EnneSmart(エネスマート)

エネットは、日本のデマンドレスポンスが本格化する前の2012年度より節電による割引サービス「EnneSmart(エネスマート)」のご提供※4を開始しました。「EnneSmart」は、当社からの要請に応じてタイムリーに節電していただくと、その節電量に応じて電気料金を割引するもので、②-(2)の「インセンティブ型」のデマンドレスポンスです。無料のサービスで、メールアドレスをご登録いただくだけでご利用いただくことができます。節電要請に対し失敗してもペナルティーなどはありません。

※4 当サービスの提供対象は、特別高圧および高圧のご契約者さまとなります。なお、沖縄電力エリア、島嶼部は除きます

サービス提供開始時より、節電によるCO2削減への貢献や電気代の削減というメリットを評価いただき、昨今では電力供給の安定化にも有効なサービスとして、多くのお客さまにご利用いただいています。

EnneSmartの実績

EnneSmartは年間を通してご活用いただく機会はありますが、特に電力需給がひっ迫する夏季や冬季に、需要家の皆さまに積極的にご活用いただくため、割引の対象となる節電要請時間帯を広げて、取り組みやすくしたキャンペーンを実施してきました。年々、節電にご協力いただけるお客さまが増えており、2022年冬に実施したキャンペーンでは約6,000件ものお客さまにご協力いただきました。

  ご協力いただいた
施設数
節電量
(万kWh)
2020年8/7~9/181,506112
2020年1/1~312,212317
2021年8/16~314,143211
2021年11/8~305,9432,500
2022年1/20~2/286,1951,722

また、初めて東京電力・東北電力管内に「電力需給ひっ迫警報」が出された2022年3月22日、23日の2日間、EnneSmartによる総節電量は134万kWhとなり、これは全電力会社のデマンドレスポンスによる総節電量796万kWhのうち約16%※5に相当し、東京電力・東北電力管内の電力需給の改善に貢献することができました。

※5 2022年4/19-28実施の資源エネルギー庁による小売電気事業者へのアンケートより算出

4. まとめ

脱炭素社会実現のためには、再生可能エネルギーによる電力供給量の増加は避けられません。電気は貯めておくことができないため、好天時の太陽光発電による余剰電力や猛暑・厳冬などによる電気使用量の急増などに対し、需要と供給のバランスを安定的に保つための有効な手段として、各小売電気事業者やアグリゲーターによるデマンドレスポンスの導入はますます増えていくでしょう。一方で、需要家にとっても高騰する電気代の削減は大きな課題です。デマンドレスポンスの活用はその対策にもなり、さらに注目されていくでしょう。