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コラム:予備率

予備率

「予備率」とは、ピーク時の電力需要に対して、どのぐらい供給力に余裕があるかを示す数値で、「電力供給予備率」ともいいます。予備率の数値が高いほど供給力に余裕があり、マイナスの場合は供給力が不足していることを意味します。また、予備率は、資源エネルギー庁が発出する「電力需給ひっ迫注意報」や「電力需給ひっ迫警報」の指標にもなります。
2022年3月22日、日本で初めて東京電力管内と東北電力管内に「電力需給ひっ迫警報」が出されたり、同年6月には東京電力管内で「電力需給ひっ迫注意報」が4日連続で出るなど、電力需給のひっ迫が問題になることが多い昨今、大事なキーワードとなる「予備率」について解説していきます。

※本コラムに掲載の図表1は資源エネルギー庁「2022年3月の東日本における電力ひっ迫に係わる検証について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/047_03_04.pdf)、図表2と3は資源エネルギー庁「電力需給対策について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/051_03_01.pdf)からの抜粋です。(2022年7月現在)

1. 予備率とは?

供給力と最大需要から計算

「予備率」とは、電力需要のピークに対し、供給力にどの程度の余裕があるかを示す数値です。供給力から電気量使用量を差し引いた値を、電気の使用量で割って算出します。簡単にいうと、予備率が高い数値であるほど供給力に余裕があり、反対にマイナスの場合には供給力が不足していることになります。

予備率の計算方法(小数点第2位を四捨五入)

予備率(%)= 予備力[供給力 ー 電気の使用量(電力需要)]/電気の使用量(電力需要) × 100

大手電力会社のHP等では、その日の電気使用状況を「でんき予報」としてわかりやすく公表しています。電気の「使用率」が確認でき、予備率算出の目安になります。

2. 予備率の目安

安定供給には最低3%、7~8%が理想

では、どれくらいの「予備率」があれば、電力の安定供給のために安心なラインなのでしょうか。この最低ラインは、「3%」と言われています。その理由は、瞬間的な電力の需要変動に対応するためで、それには最低でも3%の予備率を確保することが必要だと言われています。「電力需給ひっ迫警報」発令の指標も同じ予備率3%です。他にも発電所のトラブルや予想外の気温変化などの不測の事態に対応する余裕を考えるとさらに5%の予備率が必要となり、これらを踏まえて7~8%以上が望ましいとされています。

予備率が変動する例としては…

・ 荒天や曇天で太陽光発電の出力が低下、河川水量の減少による水力発電の出力低下
・ 地震や設備不具合の影響で発電所が停止  
・ 天気予報に反して急に気温が上昇もしくは低下した(予想外の積雪、季節外れの猛暑など)
・ くもりや雨で昼から照明をつける必要性が増える
・ 多くの人が高い関心のあるスポーツの決勝戦や好カードがある etc.

以上のようなことをはじめ、様々な要因で予備率は変わります。たとえば、100万kWクラスの大規模発電所が停止すると予備率は2%程度低下するとも言われています。
2022年3月の福島沖地震による停電や需給ひっ迫警報は、地震により650万KW分の火力発電所の運転停止が原因であり、その大きさからも電力供給が追いつかなかったことがうかがえます。

5%を下回る予想のときは注意報や警報を発出

電力需給がひっ迫し需要が供給を上回ると、最悪の場合、大規模な停電が発生します。また、発電所のトラブルなどで供給力が急に減ってしまうと電力需給のバランスが崩れて大規模停電に陥ることもあります。実際に2018年9月の北海道で起きた地震では、複数の発電所が停止して需要と供給のバランスが崩れ、北海道全域の大規模停電につながりました。電気は貯めておくことができない性質があり、つねに需要と供給のバランスを保つ必要があるのです。

発電 発電機の緊急停止 周波数低下 需要 バランスをとる必要あり バランスがとれないと大規模停電に!

そこで、あらかじめ予備率が低い数値になると予想できる際には、国は注意報や警報を発出して節電を呼びかけています。5%以下が見込まれる場合には「電力需給ひっ迫注意報」を、3%を下回ると予想される場合には「電力需給ひっ迫警報」が発出されます。

前々日の午後6時  電力需給ひっ迫「準備情報」発信 供給予備率5%下回る  前日の午後4時  電力需給ひっ迫 「注意報」発令 供給予備率3~5%  電力需給ひっ迫 「警報」発令 供給予備率3%下回る 切迫度に応じた節電依頼を実施

節電依頼が出たら、可能な範囲で協力しましょう。ポイントはあくまで「無理のない範囲で」。猛暑や厳寒の日には電力需給がひっ迫しがちですが、そんな日に冷暖房機をすべて使わない、などの極端な行動は命の危険にもつながりかねません。以下を参考に、無理なく節電に取り組みましょう。

・ エアコンの設定温度を2℃程度上下させる(夏は上げる、冬は下げる)
・ 夏は窓から差し込む日光を遮ったり、冬は日当たりのよいところで過ごすなど工夫する
・ 不要な照明をこまめに消す 等

その他にも資源エネルギー庁が発信する業種別・地域別の「省エネ・節電メニュー」を参考に取り組んでみてはいかがでしょう。

3. 厳しい予備率見通し

電力需給ひっ迫の要因

2022年3月に日本初の「電力需給ひっ迫警報」が発表されたときは、冬の電気の高需要期の終了に伴う発電所の補修などが行われていたことに加え、
・ 直前の福島沖の地震による火力発電所の稼働停止や、東北電力エリアと東京電力エリアの地域間送電線の融通量が半減したこと
・ 真冬並みの大寒波
が重なり電力不足に陥りました。偶然もありますが、実は近年、以下の理由からも電力需給ひっ迫の危険性は高まっています。

電力需給のひっ迫要因と関わる事情

・ 東日本大震災以降、原子力発電所の稼働が減少。代わりに火力発電で必要な電力を賄いながら、一方で、脱炭素社会に向けて再生可能エネルギーの大量導入が進んでいること

・ 再生可能エネルギーが増えたことの裏で、CO2を多く排出する古く発電効率の悪い石炭火力発電所の休廃止が進んでいること

・ 一方で再生可能エネルギーは天候に左右されやすく、安定供給の見通しが立ちにくいこと

・ 例年とは時期のずれた猛暑や寒波など異常気象が頻発していること

以下のグラフにある「新エネ」が再生可能エネルギーなどに当たり、近年その割合が増加していることがわかります。

発電力量(kWh):電源別割合の推移

(出所)2000~2015年度:電源開発の概要、2017年度以降:供給計画とりまとめ(電力広域的運営推進機関)から作成(自家消費分は含まない)

厳しい見通しの2022年度

電力の安定供給のためには最低3%の予備率が必要と説明しましたが、今後も予備率は、決っして楽観的ではない見通しとなっています。

2022年度夏季(2022年6月末時点の見通し)
10年に1度の厳しい暑さを想定した数値。とくに7月の東北~九州の広範囲で3.7%とギリギリなため、不測の事態に備えた対策が求められる。
  7月 8月 9月
北海道21.4%12.5%23.3%
東北3.7%5.7%6.2%
東京
中部
北陸6.4%
関西
中国
四国
九州
沖縄28.2%22.3%19.7%
2022年度冬季(2022年6月末時点の見通し)
10年に1度の厳しい寒さを想定した数値。とくに1月は東北~九州の広範囲で、2月は東北と東京で最低限必要な3%を確保できない見通し。
  12月 1月 2月 3月
北海道12.6%6.0%6.1%12.3%
東北7.8%1.5%
(103)
1.6%
(95)
東京10.1%
中部5.5%1.9%
(99)
3.4%
北陸
関西
中国
四国
九州
沖縄45.4%39.1%40.8%65.3%
こんなに足りないのか 急な電力不足で大規模停電なんてことになったら困るよ。

4. 予備率確保の方法

予備率が厳しい見通しの場合、どんな対策があるのでしょうか? 国も様々な制度や需給改善の対策をとっています。その中で、期待され注目されているのが、デマンドレスポンス(以下、DR)です。DRは、電気事業制度や電力需給対策を検討する国の審議会でも、官民連携して取り組みを加速させることが重要と位置付けられ、さらに、資源エネルギー庁のHPで、DRに関する基本的な説明やメニュー等をもっている小売事業者の一覧などを掲載したWebページを公開するなどの支援をしています。