海あり山ありの豊かな自然環境に恵まれ、神社仏閣をはじめ歴史的遺産が多く遺る古都・鎌倉。市民の環境意識も高く、市の環境政策も地球温暖化対策や環境美化・各種ごみ対策など総合的に取り組みを進めていて、2018年には内閣府により「SDGs未来都市」※1に選定されています。
そしてこのたび市内57施設に脱炭素支援メニューEnneGreen※2を導入。市が管轄する施設のうち、高圧電力のすべての施設(特別高圧電力を除く)に実質再生可能エネルギー100%の電気の供給が開始されました。導入までの経緯や目的、今後の環境政策の展望などを、鎌倉市環境部環境政策課 髙橋次長兼課長(写真1)、戸川課長補佐(写真5)、石川様(写真9)に伺いました。
※1「SDGs」とは「Sustainable Development Goals」の略で「持続可能な開発目標」。2015年9月の国連サミットで採択された2016年から2030年までの国際的な取り組みのことです。「SDGs未来都市」とは、内閣府地方創生推進室が、SDGsの達成に取り組んでいる都市を選定する制度。2018年に、はじめて29の都市がSDGs未来都市に選ばれました
※2鎌倉市は、再生可能エネルギー由来の非化石証書を活用した100%実質再生可能エネルギー電気、EnneGreen 100を導入(EnneGreenの詳細はこちら)
『持続可能な都市経営「SDGs未来都市かまくら」の創造』を提案し、2018年に「SDGs未来都市」に選定。市の基本計画に「SDGs」「共創」「共生」の視点を盛り込み、持続可能な社会の形成に向けた環境行政の総合的・計画的な推進を基本方針の一つとしている。
2020年2月に「鎌倉市気候非常事態宣言」を行い、現在、ゼロカーボンシティとして2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすることなどを目指している。
市内57施設にエネットEnneGreenを導入することで、鎌倉市の公共施設で使用する電力量の約30%についてCO₂を排出しない電気の調達を実現。市民への啓発を含め、脱炭素に向けた取り組みがますます進んだ。今後さらなる再エネ化も検討中。
鎌倉市では、1994年に「環境基本条例」制定後、国の動向も踏まえ、つねに最適な計画に見直しを図りつつ環境政策を進めています。また、2018年6月に国から選定を受けた「SDGs未来都市」として、より具体的な数値目標を掲げたまちづくり計画を進行中です。
1994年12月 | 「環境基本条例」を制定 |
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2016年3月 | 「第3期鎌倉市環境基本計画」、「鎌倉市地球温暖化対策地域実行計画」及び「鎌倉市環境教育行動計画」を策定 |
2018年6月 | 「SDGs未来都市」に選定 |
2018年10月 | 「かまくらプラごみゼロ宣言」 |
2020年2月 | 「鎌倉市気候非常事態宣言」 |
近年、市民に大きくアピールする環境政策でいえば、2018年の「かまくらプラごみゼロ宣言」が挙げられます。というのも、その年の8月、由比ヶ浜海岸に打ち上げられたクジラの赤ちゃんの胃の中からプラスチックごみが見つかるという出来事があったのです。これを受け、神奈川県が先に「かながわプラごみゼロ宣言」を行い、その後、鎌倉市も「かまくらプラごみゼロ宣言」を行い、これまでのプラスチックごみ削減の施策を強化していくこととしました。
具体的にはまず、市役所本庁舎や支所など公共施設18か所の自動販売機からペットボトルをなくしました。あわせてマイボトルの普及促進の観点から、人の往来の多い鎌倉駅西口駅前広場や市役所本庁舎を中心に、県や民間企業と協定を結んで給水スポットとして水道直結式ウォーターサーバー(写真2、写真3、写真4 )の設置を進めています。
また、「SDGs未来都市」関連では、2021年から「SDGsつながりポイント事業」をスタート。コミュニティ通貨を通じて市民がSDGsに関する活動をより身近に、かつ楽しく実感できる仕組みを構築しました。プラごみ削減やフードロス対策などの活動でポイントを獲得し、利用できるようになっています。
前述したさまざまなCO₂削減への取り組みの流れの中で、2020年2月に「鎌倉市気候非常事態宣言」を表明し、“2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする”という目標を掲げました。その方策として採択したのが、今回のEnneGreen導入です。副市長をトップとした協議会で議論を重ね、最終的に100%でやることとしました。環境省が示した、公的機関での2020年までのRE100の目標水準が30%であり、今回の導入は市の施設の電気使用総量の約30%にあたることからこの点も魅力でした。なにより、市が率先して再生可能エネルギー100%の電気を調達することで、市民の皆さんに脱炭素の姿勢をより明確にアピールできる意義は大きいと感じています。
■主な導入施設
EnneGreen導入の反響は予想以上で、近隣の市町村をはじめ、神奈川県や他県からも導入手法や仕様について何件かお問い合わせをいただきました。私たちは国から提示された手法通りに※3導入していますが、実際にその通りに、しかも高圧57施設というまとまったボリュームで導入している自治体はまだ少ないようで、私どもが先陣を切れたのかなと実感しています。
ほかにも市民の方から直接お問い合わせをいただいたり、鎌倉市と同様に気候非常事態宣言を行っている鎌倉市医師会が、その宣言の背景として本市の再エネ導入に触れてHPで発信されたりもしています。
さらに今回のEnneGreen導入は、御成小学校(写真7)をはじめ、学校が多かったのですが、子どもたちが再エネ100%の電気に切り替わったと知ることで環境への理解が深まると考えますので、今後はさらに100%再エネ化の周知に力を入れるつもりです。
※3 環境省2018年2月「国及び独立行政法人等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約の推進に関する基本方針」/
環境省2020年6月「気候変動時代に公的機関ができること~「再エネ100%」への挑戦~」(公的機関のための再エネ調達実践ガイド)
鎌倉市の施設で使用される電気量の約30%は今回のEnneGreen導入で100%再エネ化できました。残り70%のうち60%は下水道施設など24時間稼働しているような特別高圧施設になります。その部分の再エネ化の取り組みを検討し始めていて、これからも、“2050年脱炭素”に向け、「SDGs未来都市」としてふさわしい取り組みを続けていきます。
鎌倉市では、再生可能エネルギーの調達はもとより、多角的にCO₂削減に取り組んでいます。また、食品ロスをなくす取り組みも積極的に推進しています。各ご家庭および事業所への食品ロス削減の呼びかけはもとより、これまでワークショップの開催に加え2021年4月からは「鎌倉市食品ロス削減協力店制度」が始まりました。この制度では食品ロス削減に努めている事業所を登録し、市のHPで紹介するなどしています。食品も、多くのエネルギーを利用され製造されています。食品ロスを削減することはCO₂削減にダイレクトにつながっています。検討中の特別高圧電気の再エネ化などとともに、今後さらなる脱炭素へ向けて、多方面からのアプローチを続けていきます。