創立77年を迎える総合印刷会社・研文社さま。兵庫県尼崎市、埼玉県などに工場を持ち、出版印刷や商業印刷、カタログ制作、デジタルコンテンツの制作など、幅広いコミュニケーションツールを手がけています。尼崎工場は2021年4月より尼崎市クリーンセンター第1・第2工場の廃棄物発電による余剰電力を活用した「尼崎市エネルギー地産地消促進事業」に参画、年間約370トンのCO₂排出量削減を実現しました。これを利用して「“CO₂排出量を実質ゼロ”の環境配慮型プリント」として、今までの印刷に付加価値をつけたサービスも2023年より開始しています。
尼崎市地産地消促進事業に参画することになった経緯や新たなサービス、尼崎工場さまの環境問題への取り組みについてなど、同社の営業本部企画営業部長の中尾守利執行役員(以下、中尾)、生産本部尼崎工場の河田和弘工場長(以下、河田)、生産本部品質管理部佐藤建一課長(以下、佐藤)にお話を伺いました。
(河田)研文社 尼崎工場が環境への取り組みを本格化させたのは2017年頃のことです。まず、研文社の埼玉工場が印刷産業の環境問題への取り組みを表彰する「印刷産業環境優良工場表彰」(日本印刷産業連合会)で、2015年に奨励賞を受賞しました。これを受けて「尼崎工場も西日本一の環境優良工場をめざす」という目標を掲げたのが始まりです。当時、ISO14001はすでに取得していたものの、環境問題に関する知識はほぼなかったため、「印刷業界での環境問題への取り組みとは何か」について、一から検討していきました。
先に受賞していた埼玉工場にも相談しながら進めた結果、2018年に「一般社団法人日本印刷産業連合会 会長賞」を受賞。これはFSC®認証(※1)取得、オリジナル・ベジタブルインキ開発など、継続した環境への取り組みが評価されたものでした。続く2019年には一つ上の栄誉である「経済産業省商務情報政策局長賞」を受賞し、その後はコロナ禍でいったんストップしてしまったのですが、2023年には最高位である「経済産業大臣賞」を受賞することができました。
「尼崎市エネルギー地産地消促進事業」(以下、当事業)のことを知ったのは、この賞の審査のために大手の印刷会社、印刷業界のトップの団体などが尼崎工場に来られた時です。その後すぐに尼崎市にうかがって、内容を詳しく教えていただきました。
当事業は、尼崎市立クリーンセンター第1・2工場の廃棄物発電による余剰電力を実質CO₂排出量ゼロの電気として、市内事業者に供給するということで、当社が行っている環境への取り組みにも合致しますし、経営戦略の上でも武器になると感じました。
実は尼崎工場はガスを引いていません。ですので、すべての生産工程はもちろん、エアコンなどまですべて電気のみ。そのため、当社で扱う印刷物は1冊単位でCO2削減量を提示することができます。
事業に参画する時に「あまがさきSDGsパートナー」に登録させてもらいました。SDGsを達成するための経済・社会・環境の面からの取り組みを宣言。尼崎市における持続的なまちづくりの実現に貢献に向けた活動をおこなっています。
(中尾)2023年5月からは、この尼崎工場のCO₂排出量ゼロ電力を利用した「環境配慮型プリント」のサービスを始めました。これは印刷物のCO₂排出量をLCA(ライフサイクルアセスメント)に基づき算定し、実質ゼロにできるもので、デザインや紙などの素材を変えることなく環境対応商品にできます。
「環境配慮型プリント」で作られた印刷物には「カーボンゼロプリント」「カーボンニュートラルプリント」の認定マークをつけることができます。この認定マークは「日本サステナブル印刷協会」で策定したもの。この協会は当社と同じような規模の中堅総合印刷会社8社で2022年12月に設立しました。カーボンニュートラルの取り組みを推進する企業さまが増える中、私たちは印刷会社として具体的にどんな取り組みができるのか、CO₂排出量ゼロ電力や太陽光電気で稼働する工場のメリットをどう活かすかという話し合いの末、生まれたものです。
「カーボンゼロプリント」は、Scope1、2のCO₂排出量が実質ゼロで稼働する工場を、カーボンゼロプリント工場として認定し、その工場で印刷した製品に表示するマーク。また「CO₂排出量データシート」で印刷にかかったライフサイクル(原材料調達・製造・流通・販売・使用・廃棄)全体の排出量をお伝えすることもできます。「カーボンニュートラルプリント」は算定したCO₂排出量をすべてカーボンオフセットした印刷物に表示するマーク。「CO₂排出量データシート」のほか、「カーボン・オフセット証書」をお渡しします。
某大手上場企業さまでも当社の「カーボンニュートラルプリント」が採用されました。環境に関する特集を組むということで、カーボンニュートラルプリントを使っていただけることになりました。こうした動きは今後ますます広がっていくと考えており、当社としても積極的に営業活動をしていきたいと考えています。たとえば会社案内やCSR報告書、ステークホルダーの方にお渡しするものなど、これらのマークを入れた冊子を使う特にBtoBの企業さまが増えてきています。
(佐藤)環境問題への取り組みを行う中で、社員の意識も少しずつ変わっていきました。
たとえばゴミの分別。当社では同じ紙でもリサイクル適正A・B・Cで分けています。一つの冊子にリサイクルできるものとできないものが混じっていれば、手間はかかりますが一つ一つ分解して分別しています。これは2017年から我々が毎日のように朝礼でゴミの分別への協力を発信し、ようやく全員に浸透してきたと思います。
CO₂ゼロ電力を尼崎工場に導入してからは、省エネ意識も社員みんなと共有できるようになってきました。特に、脱炭素経営・SDGs経営の支援サービスとして利用できる「InfoEnnet」は30分単位で電気の使用量が見られるので非常に便利。電気の切り忘れなどもすぐに分かるので、私も毎日欠かさずチェックしています。
また「日本サステナブル印刷協会」(※3)の協会員になったこともあり、工場全体の時間当たりの使用量、印刷機単位での使用量などが見える化されるシステムも導入しました。使った量に対する料金まで表示されるため、オペレーターにこれだけ使っているよと注意すると、みんな意識が変わりますね。
環境問題だけでなく、従業員の安全を守る取り組みも推進しています。
現在工場で使用している溶剤に対して「化学物質のリスクアセスメント(※2)」を一からやり直し、溶剤の使用状況を調査しました。健康に悪影響を及ぼす恐れのある溶剤を使用している場合は、手袋や防毒マスクの着用を勧めるほか、溶剤自体の切り替えも検討しています。
現在、規制のある化学物質は700弱ほどありますが、今後5年以内に2900物質ほどになると厚生労働省は発表しています。つまり現在使用しているものも、必ずしも健康に悪影響がないとは言い切れません。今後は外部の専門家による従業員向けセミナーなどを開催して、従業員の安全意識を高めたいと思っています
研文社 尼崎工場が2023年に名誉ある「経済産業大臣賞」を受賞できたのは、工場で行っている環境対策などのほか、尼崎市エネルギー地産地消促進事業に参画してCO₂の削減と見える化に取り組み、その成果を「環境配慮型プリント」として社会に還元したことなどを評価していただいたからだと思います。
「環境優良工場をめざす」という目標をきっかけに、新しい印刷サービスが生まれましたが、今確実にニーズがあるものだと実感しています。CO₂削減の取り組みはお客さまも本当に関心が高く、営業活動の後押しになります。今後、尼崎市も印刷業界も環境への取り組みで、日本をリードしていると言われるよう、当社も活動していければと思います。
今回の研文社さまの取り組みは、「脱炭素」を新たな付加価値と捉えて、自社のサービスをお使いになるお客さまに提供していく、先進的なものです。私たちエネットは、電気に環境価値をつけて、実質再生可能エネルギーにしてお客さまに提供する役割を担っていますが、今回の取り組みでは、企業の先にいらっしゃるお客さま、つまり生活者の皆さんに、自分たちの電気をお届けしているということにもなるんだなということを、普段なかなか意識できない中、強く実感させていただく、貴重な経験になりました。
研文社さまの工場の中を見せていただいて、工場長のお話をうかがって、研文社さまのSDGsへの強い想いと社会への強い責任感がひしひしと伝わってきました。わたしたちがフロアを横切ると、社員の誰もが立ち上がり、顔を上げて、笑顔で挨拶してくださったのも印象的です。全社一丸となって、よりよい社会づくりを推進するんだ、という熱気を感じました。
私たちエネットも、これからさらに多くの企業さまとふれあって、そのお声を聴き、さらにプロとしての知見を磨いていきたいと思います。特に、企業さまの先にいらっしゃる生活者や、とりまく地域や社会に、「脱炭素」をどのような価値としてお届けしていくか、そこまでイメージして仕事をしていけたら、と今回の研文社さまの話を通じて感じました。これからは「脱炭素」で新たな事業を推進する、そのきっかけづくりができる存在になれればと思っています。
1946年創業。商業印刷や出版印刷、WEB制作などを手がける。カーボンニュートラルに対応する「環境配慮型プリント」や、見やすさ・わかりやすさ・伝わりやすさを重視した「ユニバーサルコミュニケーションデザイン(UCD)」のサービスなどを行う。